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書 名試論集古代緑地
作 者吉田一穂
出版社木曜書房
シリーズリベルタン叢書-1

memo
【抄・序】


【目次】
p7…古代緑地
p27…意識の暗室
p39…ゼノン
p47…あらのゝゆめ
p61…基督[言荒]誕
p71…西行
p77…芭蕉
p91…火をめぐる歌
p137…メフィスト考
p203…海の思想

p223…後庭の蜜蜂の巣

【本文】
p22
〈結)
種や本能という生物学的には不明確な概念でしか語られない抽象性も以上の仮設から演繹して、私は本能を生地反射と解し、種をその定向核形成と見、個体は表現であると断ずる。そして現存種は氷河期決定性の存続形式であるかに思はれる。生物本能の根源は生地指向の回帰性であり、感性的傾向は種族保存の純血性である。
 生の方向を組織する源泉思想について、感性とは何であるかを追求したこの結論から、言語がその種族の意識中枢たるかぎり、《国語民族》を形成する性格と運命の鍵として、生とは存在と火を争う混沌への創造性と見るのである。

p204
海は絶大な力を持ってゐたが、怖いというよりも親しみを感じてゐる少年にとつて、見えない神の言葉を組み合せたやうな、この新しい規則の世界は怖るべき〈学校〉である。鞭に対しては反抗をつのらせるばかりで、その隠れ場が山や海である時、まことによく自然と調和してゐる。そこには善だとか悪とかいふ抽象的な観念に代つて、直接な存在と美があった。人を導くものは鞭ではない。自然はそれに反するもの、土に根ざさぬものを拒否する。虚偽も造花も育ちやうがなく、自然は真なるもの以外に人を寄せつけない。

p205
慾望が金銭によって購ひ得る都市に於ては、年齢や人格に差別無く貨幣の行使権は自由だ。自然には購い得る享楽物は無い。蹠に直接な土の感触をもつ田園の子らに、不良などといふ概念は成立しないのである。

精神の均衡作用といふものは自然を志向するところにある。自然に対して如何なる人工物も不滅を誇ることができない。社会変革の根底に、深い人間性として自然があるのである。ふるさとが生産豊かにして、山河美しとならば、誰れか、その生国を愛せざる。生を享けたる地に生を還へすべきは自然である。しかるに近代人は殆どその生地を失つたのである。


【後記・他・関連書】


【類本】
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