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書 名金沢
作 者吉田健一
出版社河出書房新社
シリーズ-

memo
【抄・序】


【目次】


【本文】
p3
 これは加賀の金沢である。尤もそれがこの話の舞台になると決める必要もないので、ただ何となく思いがこの町を廻って展開することになるようなので初めにそのことを断って置かなければならない。併しそれで兼六公園とか誰と誰の出身地とかいうことを考えることもなくて町を流れている犀川と浅野側の二つの川、それに挟まれていて又二つの谷間に分けられているこの町という一つの丘陵地帯、又それを縫っている無数の路次というものが想像出来ればそれでことは足りる。これは昔風でも所謂、現代的でもなくてだだ人間がそこに住んで来たから今も人間が住んでいる建物が並ぶ場所でそれ故に他の方々のそうした場所を思わせることからそっちに話が飛ぶことがあるかも知れない。そのことを一々言う必要もなさそうなのはどこへ飛んでいこうと話は結局この町に戻って来る筈だからであるのみならず或る町にいることで人間が実際にそこにいる間中そこに縛り付けられているとは限らない。我々がヘブリデス諸島を見るのは他所に寝ていての夢の中である。

【後記・他・関連書】


【類本】
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