書 名 | 稚児 |
作 者 | 今東光 |
出版社 | 鳳書房 |
シリーズ | - |
【抄・序】 |
(緒言)より 〜 p12 その比叡山麓の坂本村で最も高い地点に戒蔵院という寺がある。 p13 昭和八年の秋から翌年の春にかけて、今は亡き木下寂善大僧正の許に気儘な客僧として私はその僧房に起臥した。 〜 そのやうな或る日、ふとした機縁に恵まれて一冊の写本を拝見することが出来た。これが天下の珍本である恵心僧都の御作と伝承される「弘児聖教秘伝」であった。 〜 p35 灌頂儀軌として発表すれば、素材の無味乾燥と難解と判読に困難な中世的漢文のとのために理解することが出来ないことを慮り、多少の粉飾によって興味を覚えるべく物語の形式を採った次第である。 読者之を諒されよ。 -- |
【目次】 |
p1…序文(昭和丙戌孟夏 谷崎潤一郎) p11…緒言 p37…稚児 p145…跋文(昭和21丙戌春2月於武州調布飛田給草庵 東光坊春聴) |
【本文】 |
p38 比良の山脈にはまだ残んの雪が白く見へながらも四月八日の誕生会がすむと、若狭街道に沿ふた板屋根の上に石を置きならべた民家の庇のあはひから、坂本の馬場の桜が松の間にまぢつて團々と咲きこぼれてゐるのが眺められ、湖畔のうぶ毛に似た若い蘆荻があるかなきかの風に小波を立てはじめて湖国の春がおとづれるのであった。 〜 |
【後記・他・関連書】 |
【類本】 |